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法学部主催の講演会「米大統領選挙を振り返って:ホワイトハウスまでの道のりと今後のアメリカの行方」を開催しました

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 講演会「米大統領選挙を振り返って:ホワイトハウスまでの道のりと今後のアメリカの行方」(法学部主催)が11月17日、ポートアイランドキャンパスで開催され、神戸大学の簑原俊洋教授(専門は日米外交史)が講演。同教授は、今月8日(日本時間9日)に行われた第45代アメリカ合衆国大統領選挙を振り返り、共和党の実業家のドナルド・トランプ氏が大統領に選出されたことをBrexit(英国のEU離脱問題)後の次なるショックであるとし、米大統領選挙の制度の解説および今回の選挙結果の分析を行い、今後の世界と日米関係について講じました。  簑原教授はまず、言動が支離滅裂であり、マイノリティに対する差別発言をするトランプ氏が大統領に選出されたことに対して、今後混とんとした時代をもたらす、歴史が変わる選挙になったと述べました。そして、民主主義とは、有権者が適切な情報をつかみ、国のために考えて投票する制度であるが、今回は若い世代があまり投票しなかったと指摘し、若い世代が左右する力をもつと話しました。トランプ氏の特徴については、彼の著作”Art of Deal(取引の芸術)”によると、第一に大きく考えること、第二にレバレッジを駆使すること、第三に反撃することであるとし、アメリカ第一の一国主義者であるとしました。また、ビジネスマインドをもち、義理の息子が米国の機密文書をみられるように要請するなど、前代未聞であると述べました。  簑原教授は、米大統領選挙は間接選挙であることがキーポイントであると説明しました。一般投票がまず行われ、その結果を反映して12月19日に各州の選挙人が投票し、1月6日に連邦議会において開票され、結果が承認されます。各州の選挙人は上院から2名、下院からは各州の人口比に応じた人数が割り当てられています。これは、建国時に州ごとの人口の差が大きかったため、各州の民意を反映させるために考え出された制度です。13州(173票の選挙人票)が激戦州であるといわれていますが、簑原教授は、鍵をにぎったのは5州だと述べました。講演会当時、ミシガン州の16票が未確定であるものの、トランプ氏の選挙人獲得数は290票(勝利ラインは270票)である一方で、一般投票者数では、ヒラリー氏に投票した人の方が100万人以上多く、アメリカ史上もっとも差が開いています。  トランプ氏は現在70歳で、裕福な家庭で育ちました。New York Military Academy(ニューヨークの陸軍士官学校)にいたとき、高校生で40人の部下をもち、そこで「人の上に立つ者」としての自己理解を得たと、簑原教授は述べました。2000年に改革党から大統領候補になりましたがすぐに撤退します。その後「アプレンティス」というテレビ番組で人気者に。公職についた経験はなく、政治、軍事ともにまったくの素人です。フォーブス誌の長者番付において米国で156位であり、現在トランプ大学とトランプ財団をめぐり、法廷で係争中。また、副大統領候補のペンス氏は、自身を「第一にキリスト教徒、第二に保守派、第三に共和党員」であると述べています。宗教右派であり、「共和党主流派のパイプとなるか?」が問われます。  今回の選挙は、CNNによる選挙前予想ではクリントン氏の勝利の確率が90%とされていたので、世紀の大逆転でした。簑原教授は、ヒラリー氏の敗因は、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガンの各州で共和党が勝ったことであったと講じました。選挙を決定づけたトランプ氏の争点は移民とオバマケアで、「反体制、反エリート、反クリントン」という既存の政治からの脱却であり、オバマ大統領の8年間のレガシーの完全な否定でした。  簑原教授はトランプ氏の勝利の分析として、マイノリティが増えたり、オバマ大統領が同性婚を認めたりしたことなどにより、白人のキリスト教の国であるアメリカが早く変わりすぎたことへの危機感が、保守回帰に結びついたと説明しました。リーマンショックから立ち直れていない経済的状況もあり、これまで民主党に票を入れてきた労働者が共和党に入れるという、「赤いさび」が出た「青い壁」の崩壊です。政治に関心のなかった非政治層・反体制の「見えない山」が大きく動いたのです。それに加え、人種やジェンダーなど、蔓延する差別意識があったことと、マイノリティとミレニアル(若者)の希薄な危機意識により投票率が下がったことも原因であると講じました。  簑原教授は、トランプ氏が今後インフラ投資、保護貿易、法人税の引き下げを行うと、短期的には米経済は良くなるとの考えを示しました。大統領選後、トランプ氏は現実回帰をしたと言われていますがそうではなく、オバマケアの廃止やパリ協定からの脱退は法的にできないだけです。今度何をしていくかを注視すべきであると述べました。トランプ氏の対アジア政策では、限定された関与、およびレッドラインよりボトムライン(何が黒字になるか、ペイするか)の重視が特徴的になるとの考えを示し、対日政策においても地政学的見地から見ることができずにボトムラインで考えるため、骨抜きの日米同盟になることも考えられると述べました。安倍首相がトランプ氏に会いに行ったことを日本のメディアはよいことであると報道していますが、簑原教授は日本は楽観的すぎると指摘し、これまでのトランプ氏の前代未聞の言動を踏まえて、今後の彼の政策を考えるべきであると講じて、講演会をしめくくりました。  米大統領選挙直後の講演会であったこともあり、学生の関心は非常に高く、熱心に耳を傾けていました。  講演会の様子は17日のサンテレビ「NEWS PORT」や翌日の神戸新聞朝刊でも紹介されました。

法学部 荒島千鶴